僕だってライブラの一員になってそれなりになる。
これまで幾多の困難を乗り越え、世界を救うヒーローたちに必死について来たけど、
今回ばかりは、命がけもいいところだと思う。
「レオ」
ザップさんの低い声が緊張を促す。中身はクズだとしても天才と呼ばれるこの先輩さえ、
頬に汗を浮かべて指先まで緊張しているのが分かる。
僕らは最も危険な場所に足を踏み入れようとしているんだ。
「ヤバい時は、すぐに逃げろ」
ザップさんが軽口をたたかない。それこそ僕にとっては世界の終わり見たいな意味だ。
ザップさんがそっとドアを開ける。部屋の中は遮光カーテンが閉め切られていて、真っ暗だった。
「レオ、見えるか」
そっと目を開く。部屋のほとんどを埋めていたベッドの真ん中に、
人間が二人横たわっているのが見えた。起きている様子はない。
「・・ハイ」
「そうか・・」
ザップさんが少し残念そうにそう呟いた。
起きていてくれれば、この後予想される悲劇は少しマシになっていたかもしれない。
だけれど、ベッドの真ん中に寄りそうように横たわる二つの塊は動きそうもなかった。
ザップさんが気配を消して部屋の中に踏み入れる。僕もその背中について行く。
逃げろ、と言われたが、ここで引き下がるわけにもいかない。
塊は動かない。暗闇の中でザップさんが横たわる手前にいる人間に手を伸ばした。
と思った瞬間だった。
奥側で眠っていた人物が勢いよく立ちあがった。
ヤバい、と脳内で警鐘がなるも遅い。
目にも止まらぬ速さで地面を伝って出来た氷の刃はザップさんの喉仏数ミリのところで止まった。
そんな状況でも僕を背中でかばう先輩の姿に、少しだけ感謝しつつ、死にたくないとひたすら祈る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザップ」
「うううううっす!すたーふぇいずさん!いいあさっすね!!!!!!!!!」
もともとヤバい人だとは思ってた。
どう見たってマフィアそのものだ。
だけど、この日ほどこの上司が怖いと思ったことはない。
「・・・・殺すところだったぞ・・・・出て行け」
「おれもしんだとおもいました!でていきます!」
ザップさんはそう言ったけれど、足が地面に張り付いて動かない。
凍ってる。泣いたら涙まで凍りそうだったので必死にこらえる。
「・・・んぅ・・・・・さむい・・・」
ザップさんが最初に起そうとした手前に居た人物がその冷気に目を覚ましたのか少し動いた。
誰もが、それこそスティーブンさんだって緊張した瞬間だった。
もぞもぞとシーツの中で動いた後、ゆっくりと身体を起し、
ぼんやりする小さな肩を僕は動かない足を何とか動かそうと必死になりながらスローモーションで見ていた。
スティーブンさんがベッドの端に座って、その人物に少しでも近づこうと身体を寄せている。
起きあがった人は身体を起したものの、頭が起きていないようで、
ぽす、と音が鳴るかのように軽い動作で既に起きあがっているスティーブンさんの肩口に頭を寄せた。
その瞬間、少しだけ上司の殺気が緩んだ。
「さむい・・です・・・・」
「ああ、ごめん。すぐに追いだすから」
「ん・・・・てきしゅうですか・・・」
「まぁ近いもんかな。すぐ片付けるよ。」
「うん・・・・・」
腕を通しただけのシャツが、明らかに上司が昨日きていたものであることに気付きたくなかった。
顔に熱が集まるのを感じながら、暗闇の中でちらりと見える彼女の肩を見れば、
その下には何も身につけていないことが簡単に予想される。
そりゃ寒いよな、と思う半面、だからこそ共に世界を救う仲間なのに上司がここまで殺気立ったのに納得がいった。
「さて。僕のレディはまだ眠いそうだ。昨日は随分夜更かししたからな。
だから、キッチンで、話を、しよう。
僕はシャワーを浴びてくる。
お前らには神に祈る時間をやるよ」
最早脳内で警鐘なんかなっていない。
僕らの人生がここで終わるのが決定したからだ。