「あー、だから聞いてますか?Mr、貴方のためにおめかしするのに時間がかかってるんですよ」

深い海を吸いこませたような濃い青色のドレスがの身体に沿って揺れる。
不機嫌そうに電話を受けながら執務室に入ってきたの姿に、そこにいた全員が一斉に注目した。

「だめ、です。待っててください」


制止する甘い声は、正直言って、相当クる。は全員の視線をもろともせず、執務室にあるウォークインクローゼットへ入って行く。
彼女は出て行ったのに、彼女がつかつかと歩くたびに揺れたドレスが視界の端でまだ揺れているような気がした。

「・・・・・・・やっべーですよね。」

レオナルドの一言が何を指しているか分かったが、
レオナルドと同じような考えを持った自分にティーンじゃないんだからしっかりしろ、大人の余裕だ、と言い聞かせる。
まぁ言い聞かせてる当たり、まったく余裕がないのだが。

「いつも思うが、はその、本当に」

あー、わかるよクラウス。彼女は本当に化けるんだ。
クラウスはその先の言葉を噤んだ。
どうせ、女性に対して差別的な発言になるんじゃないかと悩みだしたからだ。

は化けるよなぁ」

クラウスが噤んだ言葉を、ザップが言う。

「あいつがスポンサーと会う時、めちゃめちゃ良い女に見えるんだよなぁ。いつもはあんなのなのに・・・・・と、童貞レオナルド君が言ってましたっ」
「はああああ!?急に何を言ってるんですか!!!SS先輩」
「なぁ?魚類もそう思ってるんだろ?な!?」
「貴方のような低俗な人間と同じにしないでください。でも、さん、綺麗ですよね」

度し難いクズと、
初な反応なレオナルドと、
花を飛ばしながら、他意のないツェッドの三人は
三様同じことを言っているのに、どうもむかつくのはザップに対してだけ。日ごろの行いだなぁ

「喋り方、笑い方、グラスの持ち方、ワインの呑み方、全部、しこまれているんだよ、は」
「あいつずっと戦闘員じゃなかったんですか」
「そりゃ15歳の女の子に、そんな任務は与えないよいくらなんでも。
でも彼女の2人いる師匠のうちの片一方はそうは考えてなかったらしくてね。
15歳の女の子に男の扱いを教え込んだんだ。女性だからこそ、身を守るために武器は多い方がいいとか何とか言って。」
「で、スターフェイズさんはそれにめちゃめちゃガッツリハマっちゃったと」
「ザップ、書類仕事がしたいならそう言ってくれれば良かったんだ。」

俺は、男を騙すようなに惚れたんじゃなくて、
わがまま言って、不機嫌になって、泣いて笑って、おいしいもの食べたらおいしいと言って、
抱きしめたらてれ隠しに身体を寄せてくるに惚れたんだ。
と、言うと次の日にはKKにこの話が広がってしまい、ザップはいつもより良い酒を手に入れ、
生贄に俺はKKが諦めるまで弾丸の嵐から逃げなければならなくなるので絶対に言わないし言えない。

「ドレスの色は、会ってからのお楽しみにしててください・・・ええ、わかってます・・・
うん・・・・だめです、だめ・・・ね?・・やだなぁ、私はMr,のことなんかどうだっていいんです。
あはは、酷い!欲しいのは、貴方のサインが入った小切手です。・・・ええ、いい子で待っててください・・はぁい。」

細いヒールのパンプス姿で現れたは眉間にしわを寄せて電話を切った。

「私この人、やだ」

その言葉と表情は、いつものそのもので、数秒前までスポンサーに対して醸し出していた危うい雰囲気は一掃されていた。

「どうしたんだい」
「待ち合わせの時間、急にはやめてきたんですよ!急に!!もおお!!!」

つかつかと音を鳴らしながら僕のデスクまでやってきて、今から会う、スポンサーのファイルを手にとったの腰にそっと手を回す。
今は、怒りの対象がスポンサーに向いているせいで、俺の多少の悪戯は多めにみてくれるらしい。

「とりあえず、小切手ブン捕って帰ってきます。」

出来たら首筋にキスマークの一つでも付けて置きたい。
と、白い首筋に唇を寄せるも、それは駄目だったらしく、そっとの手に止められてしまった。
彼女はベッドまで誰かと共にするような事はしないし、
そんなことをしていたらスポンサーといえど、不審な失踪事件が立て続けに起こることになる事を彼女はよく分かっている。
笑みと話術とちょっと強引な物いいで大抵のスポンサーは0が沢山並んだ小切手にサインをしてくれる。

「・・うん、行ってらっしゃい」
「20時までには帰ります」
「そのまま直帰していいよ」
「…ええ、分かりました。20時にスティーブンさんのおうちですね、」

ちらりともこちらに目線をやらず、ファイルを閉じたがそう言った。
面食らったのはこっちの方だ。きっとその時僕は最高に馬鹿な顔をしていただろう。

「いってきまーす」

彼女の明るい声だけが執務室に取り残される。



「やっべー・・ですね。」

レオナルドの二度目の呟きにああ、そうだよ、その通りだ。
俺の言葉に照れて真っ赤になるミーアもそりゃあ可愛いが、男を手玉にとるときのだってそりゃああもう堪らないんだ!
と叫びたくなったが、何とかこらえて机に伏せる。
とりあえず、19時までに仕事を終わらせ、
家に帰り、彼女の好きなものを机の上に並べて、
彼女をベッドに連れて行く許可をもらうまでがミッションだ。
ああ、本当に。小娘に良いようにされてる!