「君は少し警戒心を覚えた方がいい」
「はぁ。」
「大体なんで君はここにいるんだ」
「スターフェイズさんがご飯食べにおいでって!言ったんじゃないですかっ!」
「男が女性を夕食に誘うのは、大体、そのあとのことを考えて誘うんだ」

の腕をつかんで抱き寄せて、そのままソファに押し倒した。
それでやっと、彼女の頬が赤く染まったのだから、これでは前途多難すぎる。
金色の瞳が見開かれて、まるで猫のようだった

「つ、まり、すたーふぇいずさんは、私を美味しいローストビーフで釣ったと」
「まぁ、そうだな。うん。疑いもなく付いてくるもんだから、釣りは成功したわけだ」

の耳にキスして、そのまま首筋を辿ろうとすると腕の中でが暴れ出した。

「だめですだめです!!!」
「だから、言っただろ、男に対して警戒心が薄すぎる。」

ちゅ、とわざと音を鳴らしてキスすると、白い首筋に綺麗に赤い跡が残った。
それを見て口角が上がって行くのを止められない。

「だめですって!!!!!」

ぐい、とが両腕を伸ばして俺から距離を取ろうとする。仕方がない。
今日はこのくらいでやめておいてやろう。と思って身体を起せば、
目の前にあるのは、顔を真っ赤にして、髪も乱れて、服も乱れて、泣きそうなの姿だった。
ううん、これはジャパニーズ据え膳ってやつじゃないだろうか

「駄目なのかい?」
「だ、だめです!」
「どうして」
「お、おねえさんが、おねえさんたちが、こういうことは、す、すきなひとじゃないとだめって」
は俺が好きじゃないんだ」
「す、きじゃ、ない、です!大体、そんな、だって!」
「悲しいなぁ、俺はこんなにが好きなのに。」
「ええっ!?」

間抜けな顔をして声を上げる。あー。可愛いなぁなんて思ってしまう辺り、脳が随分やられている。
大体、自分の好みじゃない。全然。身長も低い、子どもっぽい。

今まで相手にしてきた女性たちの持っているものを、彼女は一つも持っていない。
代わりに、今まで相手にしてきた女性たちの持っていないものを、は全部持っている。

それらがどうしたって愛おしいんだと思う。

「な、なんで・・ですか」
「なんで、と来たか。そんなに意外だったかな?さぁ。なんでなんだろうなぁ。
笑顔、自由奔放なところ、強いところ、俺に躊躇なく触れてくるところ、あと、なんだろ、全部かな。
「そうやって何人も女の人をだましてきたんだ!こわいよおお」
「まさか。本当に騙すならもっと上手くやるさ。食事なんか連れて行かなくたって耳元でささやけば、皆ベッド直行」
「最低だぁ!!!」

ばたばたと暴れるをもう一度、腕の中に閉じ込める。
びくり、と小さな体がはねて、耳まで真っ赤になった。面白いなぁ

、俺は君が好きだけど、君はどうだい?」
「だ、だからぁ」
「もし嫌いなんて言われたら、俺はきっとこのまま死んでしまうだろうなぁ」
「脅しだ!」
「もしかしたらここから飛び降りるかも」
「ここ高層マンションの35階ですよ!?」

はくるくる表情を変えて、自分の心配よりも俺の心配を始めた。そんなところも好きだなぁ。

「じゃ、じゃあ、こうしましょう!」
「うん?」
「今日は一緒に寝ましょう」
「はい?」
「スターフェイズさんは、徹夜が続いて頭がアレになってるから、」
「うん、」
「寝て、起きて、明日の朝も、その、ほんとに私が好きなら、ちょ、っと、考えます。」
「そんな不安定な約束はできないし、君の言ってる「寝る」って意味がもし二人並んで文字通り眠るって意味なら絶対に無理だろうな。我慢できないし」
「そこは大人の余裕と我慢をみせてくださいよ!!!」
「でももしここでその申し出を断ったら君どうするんだい」
「家に帰ります」
「ザップは」
「いるんじゃないかなぁ・・・」
「・・・・・わかったよ、わかった。そうしよう。」

つまり俺は好きな女がすやすやと隣で寝てるって言うのに何もせずその寝顔を見て貫徹をしなければならないということだ。

「でも君の願いばかり聞いてられないな」
「・・・ど、どういうことでしょうか」
「明日の朝、起きたらまず君はここに引っ越すために用意をしなさい」
「なんで!?」
「君が引っ越して来ないなら、ザップは事務所のオブジェクトとして飾られることになるけれど、それでもいいなら、まぁ別にいいよ。」
「だ、だめだめ!だって、私スターフェイズさんのこと、お兄ちゃんくらいに思ってて、あの、だってそんなの急に言われたって!!!」
「その辺りは大丈夫だ。絶対にすきにして見せるから」
「ぅんっ」

がばっと起きあがって慌てる。誰でもなくあの度し難いクズのために慌てる
ものすごくものすごく腹立たしい。小さな唇に噛みついて、キスしたら、俺の胸を結構な強さで殴りだした。
腹いせに少し舌を入れると、小さな声が漏れる。

「んっ・・やっ・・だ、ふ、ぁ・・・っ・・すた、ふぇいず、さんっ・・」

最後にちゅ、と音を立てて離れると、ふるふる震えて、可哀想に、息を切らす
あー俺はこの子を隣に置いて、今晩なにも出来ないんだなぁ・・・誰より可哀想なのは俺だ。
何が起こったか分かってないを抱き上げて、寝室を目指す。
せっかく久しぶりに家に帰ってきたのに、一睡もできないなんて、なんて俺は可哀想なんだ。



「おはよう、
「・・・・・・・・!?・・あっ・・あ、そうだった・・・おはようございます・・」
「どう?僕の事、好きになった?
「ちゃんと好きって言われてないですから・・!」

思ってもみなかった答えに今度はこっちが目を丸くすることになった。
寝起きの唇にキスすると、面白いくらいにの顔が赤くなった。

「分かった。覚悟しとけよ」

我ながら、悪魔みたいな囁きだ。やっぱり、一番かわいそうなのはだったかもしれないな。