初めてに会った時は最悪な状況だったのを良く覚えている。
まだHLがNYと呼ばれていた頃に、ある場所でブラッドブリードが確認され、
そしてすぐ対処に向かったチームが一人を残し、全員、死亡という緊急連絡が入った。
まだ正式に入団していなかったクラウスをつれていくくらいには緊急事態だった
全滅、という言葉はブラッドブリードを相手にしている限り、世界が終わるまで何度も聞く羽目になる最悪な報告だ。
俺達は、一人を助けるために、その場所へ向かった。

教会の跡地だった。崩れかけた教会に、その少女は、立っていた。
15歳くらいだろうか。崩れた天井から太陽の光が差し込み、随分と幻想的な風景になっていた。
でも、それは、少女の背後に立つ、ブラッドブリードの姿さえなければ、の話だった。
俺たちが駆け付けた時には「終わっていた」全てが。
遺体の山、そして少女。そして、「終わりかけ」のブラッドブリード
駆けつけた俺たちを少女はちらとこちらに目線をやった。
風で煽られた黒髪の隙間から金色の鋭い瞳が俺達をとらえる。
それは猛獣かなにかと良く似た瞳だった。
しかし少女はまた目の前の吸血鬼に目線を戻した。
ブラッドブリードの身体は巨大な鉱石の塊によって貫かれていた。
皮肉なもので、ドラキュラのモデルとなったヴラド三世が好んだ刑だ。
後にそれがが作りだした魔術水晶ということが判明するが、
15歳そこそこの少女が生みだしていいものではない。

パチン、と彼女が指を鳴らす。すると、ブラッドブリードが崩壊しはじめた
そもそも吸血鬼、と呼ばれる化け物たちは強いが弱点がある。太陽の光とか、十字架とか。
しかし、それはエルダーズ級の化物になると、弱点はあってないようなものだった。
だから俺達みたいな人間を作らざる負えなくなったのだ。
しかし今まで様々な流派を見てきたが、あんなものを作る流派は見たことがなかった。
鉱石が刺さった胸元から、崩壊を始めたといった表現が一番正しいだろうか。
ブラッドブリードが少女に向かって手を伸ばす。
少女とブラッドブリードに目を奪われていた我々の誰かが叫んだ「下がれ!」

少女は首をかしげただけだった。「あ」ブラッドブリードが発した最後の言葉がそれだけだった。
ガラスが割れるように、ブラッドブリードは静かに崩壊した。
それはこの世のものではないような、美しさだったのを覚えている。そこには、少女と我々だけが残った。
そうかこれが噂の同族殺しのヴァンパイア・ハーフかと、その時気付いた。

「君は・・・」

クラウスが声をかけた。

です。はじめまして」

との出会いはそれが最初で、はそれだけ言うと、崩れ落ち、一カ月、病院のベッドの上で眠り続けた。



「あんなに小さかったのになぁ」

目の前でローストビーフを食べながら、一度もこちらを見ず、テレビを見つめる女性。
少女が女性になったからといって変わったのは年くらいで、
多少、本当に多少、大人っぽくなったものの、自由奔放さは全く持って成長しなかった。
俺は、あの光景を見た時から、ずっとに心を奪われている。
と言うと、どう聞いたって犯罪者だ。KK辺りに聞かれたら俺はハチの巣にされる。

「何ですか。おとうさんですか。」
「やめてくれよ、そんな年じゃないよ」
「でも、完全に感傷に浸るおとうさんでしたよ、おとうさん」
「やめろー」

俺はソファに座ってるのに、彼女はダイニングテーブルから動こうともしない。
ワイングラスを傾けて、せっかく男と女が一つ屋根の下に居るのに全く何も起こらなさそうな空気にため息がつく。

「ごちそうさまでした!美味しかった!」
「そりゃよかった。ヴェデットも喜ぶ」
「スープも美味しかったですよ」
「それは俺が作った」
「一人が長いとこんなに料理が上手くなるんだなぁ」

人の家で食事をしておいてどこかしらとげのある言い方に少しイラつく。
だが、彼女を今晩ここに誘ったのは誰でもなく自分なのだから仕方がない。
カチャカチャと食器を洗う音が聞こえてくる。生活感のある音というものをこの部屋の中で聞くなんて、あり得なかった。
自宅に帰るのは寝るため、後、ホームパーティ。
ホームパーティは終わったら、荒れた部屋と酒で動かない頭と空虚な気持しか残らない。
「お水もらっていいですかー」という声に「好きなもの飲みなさい」と伝えながらテレビを見る。
爆発音、倒壊するビル、叫ぶ人、今日もHLは平和だった。

「私だってそこそこ料理作るんですよ」

ペットボトルの水を手にが隣に座った。彼女はテレビから目を離さない。
黒い髪を一房取って触れても、彼女はちらりとこちらを見るだけで、反応などしなかった。
困った。男として見られていない可能性がある。

が?それは食べられるものなのかな」
「当たり前ですよ!」
「君って何処に住んでたっけ。」
「裏通りのホテルの最上階ですね」

裏通りのホテル。ザップ御用達の娼婦が男を連れ込む目的か、
または男が娼婦に連れ込まれるためのホテルの事を言っているのだろう。
随分と治安が悪いところだ。女性が住んで良い場所では絶対にない。

「雑多なところですけどね、最上階のフロアをマダムからもらいまして」

彼女の副業はなんていうか、ストリップクラブやバーの管理だ。
あの無法地帯の半分の店を掌握しているマダムに恩があるらしく、時々、店を回って経営や管理をやっているらしい。
それから時々、酒場に出向いて何曲か歌う。後は、娼婦に絡む荒くれ者を裏に連れ出して、制裁するような事も請け負っている。

「こう、女の子を殴ることで性的欲求を満たすような客に当たった子とかが逃げ込める部屋、兼 私の部屋です。
だから大所帯になるんですよね。料理もファッションも皆そこのお姉さんたちに習いました」

三年前、まだNYだった頃、クラウスとと三人で事務所を構えた頃から、ずっとそうだった。
最初は、裏通りでしか入らないような情報を集めてくれと、頼んだのが始まりだ。
女性は女性にしか喋らないこともある。
は働いてる娼婦の懐に入り込み、情報を集めていた。その過程でマダムに気にいられたらしい。
しかし客をとっていた、という話は聞いたことが無い。
それは、恐らく、彼女の事を子どものように、妹のように思う、裏通りで生活する娼婦たちのおかげだろう。

「女の子は出入り自由なんですけどね、まぁ、時々ザップが帰ったら居たりしますけど」
「は?」
「泊めてくれる女の子がいないと、来るんですよ、うちに。
また女性ウケがいいから男性恐怖症になった女の子も、ザップだと気を許しちゃうんですよね。
あのクズもクズで理由とか分かってるから、家で女の子抱いたりしないし。まぁしたら窓からつき落としますけど。」
「まさかとは思うけど、あいつと寝たりしてないよな?」
「どっちの意味ですか?」

きょとん、とした顔でこちらを見つめる。頭が痛い。警戒心が無い。
大体、上司に食事に来ないかと言われて、ついてくる時点で警戒心云々は無いとは思ってたけれど。

「同じベッドで、寝ることは、あります。というかザップが来るときって大体一緒に寝てるかも・・・」
「は?」
「わっ、さむっ・・え、怒ってますか????ちょ、床!床凍ってる!!」

思わず足に力が入ってしまい、床が音を立てて氷出したのを見て、慌てて足を引っこめた
君は、今、何を言ったか、分かっているのか

「あの度し難いクズと、一緒に、寝てる?」
「え、ええ・・まぁ・・・・あっ、あれですよ、えっちなこと、してませんよ!?」
「そんなことしてたら明日、あいつを氷漬けになるぜ」
「ええっ駄目ですよ!一緒に寝てくれる人がいなくなってしまう・・」
「待て、君は望んでアレと寝てると」
「アレ呼ばわりになってる・・!ええ、あれ?言ってませんでしたっけ?私、不眠症で、誰かと一緒じゃなきゃ寝れないんですよ」
「聞いてないなぁ。」

ぱち、とテレビを消す。リモコンを投げて、さてどうしようかと思案する。
俺は彼女をこんなにも好きなのに、この子は度し難いクズと仲がいい。
そして、俺は上司という認識であり、男という認識はされていない。恐らく、兄程度にしか思っていない。
だから彼女はここに居る。
髪を撫でて、の頬に触れる。彼女はキョトンとしたままこちらを見ているだけだ。